紅の勇者オナー・ハリントン・シリーズ
このシリーズはハヤカワSF文庫の翻訳版第一作が出た頃から愛読している.
解説にも書かれているが,“SF版帆船小説”と呼ばれている.
特に私は帆船小説は読んだ事はないのだが,「ホーン・ブロワー」シリーズとよく対比され英仏戦争がモチーフになっているとも言われている.
小学校高学年の頃から,高千穂遙作品や富野由悠季作品は好んで読んできたが,10年ほど前から海外原作のSF小説を読むようになり,読み漁るというほどではないにしろ,つまみ食いしてきた.
中でもこのオナー・ハリントン・シリーズはとりわけ気に入っている.
ダイナミックな戦闘描写と繊細な心理描写が特徴的な矢口悟氏の翻訳が読みやすいのである.
本シリーズで特筆すべきは,レーザー等のエネルギー系兵器とミサイル等の実体弾の使い分けが明確で,それがSF設定に説得力を持たせる結果を得ている.
また,超光速航法の技術として“ウォーショウスキー擬帆”と称するものが設定されており,スペース・オペラでありながら帆船小説の匂いを強く意識させている.
10月下旬,シリーズ第7作日本語版「囚われの女提督」が発売になった.
これまで一貫して,対艦戦や主人公オナー ハリントンの格闘描写等のダイナミズムが見せ場だと思ってきたが,今回は政治的・心理的駆け引きに重きが置かれている.
しかも,これまでは,続きがあるのは分かっていても一応の区切りはついていたが,今回は一難去って次の一難が待ち構えているというところで次作へ譲られている.
シリーズ第6作「サイレジア偽装作戦」からかなり間があいたので,第8作日本語版の発表がとても待ち遠しい.
最近何かと話題のSNS,mixiに本作品のコミュニティもあり,私も登録しているのだが驚いた事に翻訳者の矢口悟氏も当該コミュニティに参加して読者と作品についてや翻訳時の言い回しの選び方についての議論を楽しんでおられる.
作家としては,生の読者の声をリアルタイムで聞くことのできる格好の場として利用できるのだろう.
しかも,手紙などの手段では一方通行になりがちなものが,簡単に返答できるわけである.
すごい時代になったと思う反面,アマチュアとプロフェッショナルの境界が希薄になっていく,ボーダーレスと言う言葉で表現されるが,曖昧で混沌とした状況が予想される分,恐ろしいような気もする.