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愛とまぐはひの古事記

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大塚ひかり著KKベストセラーズ刊

私が梅田旭屋書店本店で最もよく利用するのが6階の理工学書コーナーであるが,上から順繰りに階段で下り,必ず足を止めるのが歴史関係のコーナーである.
1年ほど前だったかに本書を手に取ったものの購入には至らなかった.
最近,思い出し,読みたくなったが書名が思い出せない.
ネット検索で我ながら大概恥ずかしい検索語で調べた末にようやくたどり着いた.その書名は標題の通りである.
もともと記紀神話には興味があって,講談社学術文庫の対訳付きのものやら,特に古事記で言うと梅原猛著の現代語訳やらを読んだが,本文中の歌が情熱的で美しいなどと書かれているものの,古典脳ではない私には全くピンと来なかった.
大抵の記紀の解説本は大学の文学者によるもので,素人にとっての情緒感に欠けていたように思っていた.
発行当時,平積みになっていたのを見たときはセンセーショナルだった.(と感じながらなぜその時購入に至らなかったのか自分でも謎である)

よく言われていることは,仏教的道徳観も儒教的道徳観も輸入されていない古墳時代くらいまでは,古来日本人は性に対しておおらかだったことが古事記から伺えるということである.
“まぐはひ”とは,本文中の説明を引用すると単に性行為を指すのではなく「目と目を合わせ,見つめ合い,愛の言葉を交わすことから始まり,愛撫挿入後戯といった性交全般を表しつつ,結婚まで含んだ幅広い意味をもつ言葉」であると書かれている.今で言う“エッチ”ではない.
そもそも私はエッチという言葉は嫌いである.なぜならば元は“変態”のローマ字表記頭文字から来ているからである.性行為を指すのであれば至って“通常”である.
などと考えていると,“まぐはひ”とは非常に好感の持てる言葉であると思えてくる.
男女とはこうあるべきと,この“まぐはひ”という言葉が表していると言えるかもしれない.

しかし,本書を読みすすめていくと,著者が現代に照らし合わせればこういうことであるという述べ方をしてくれている上に,とがしやすたか氏の2~4コマ漫画的挿絵のおかげで,生まれてくる子が男か女かを賭けの対象にしたり,おおらかというよりも自らの行為の結果に対してこんなに無責任で良いのか!?と思えるほどである.
最も端的なのは,アマテラスの孫,ニニギノミコトがイハナガヒメとコノハナサクヤヒメの姉妹のうち,ブサイクなイハナガヒメを追い返し,コノハナサクヤヒメとの“まぐはひ”の結果できた子を自分の子ではないと断定して同様に追い返してしまうことであろう.
現代ならば“サイテー”な男のそしりを甘受せざるを得ないような神が,初代天皇神武ことイワレヒコの曾祖父なのである.
なおかつ,イワレヒコの皇后の母は,溝を跨いで脱糞中に丹塗り矢に化けたオオモノヌシに陰部を突かれて後の神武の皇后を身ごもっている.
傑作なのは,妊んだが父親が誰か分からなければ“神の子”と片づけてしまうことである.おおらかを通り越して乱倫の極みとも思える.
書面によって法的に縛られるわけでもなければ,HIVの心配もない,ある意味では羨ましい時代ではあったのだろうが,古事記の編者と言われている太安万侶は,編纂作業をしていて恥ずかしいような照れくさいような感覚は無かったのだろうか.こんなことを思う事自体が,仏教的儒教的道徳観に毒されているということか.

経験学的恋愛・結婚論として古事記を捉えることもできるが,どちらにせよ古事記に書かれている事は,いわゆる貴き人々のことであって庶民を描いたわけではない.
ならば,暴論であるが,現代の天皇家もこの頃に戻れば,嗣子問題に悩まされずとも済むのではあるまいか.

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コメント (0)

ともにゃん:

面白そうですね。と言うか、非常に興味深いです。

積読状態になっている本を片付けたら、ぜひ入手して読みたいと思います。

>現代の天皇家もこの頃に戻れば,嗣子問題に悩まされずとも済むのではあるまいか.

私もそう思います。「暴論」じゃなくて「正論」ですよ。
だって、われわれ一般の国民と天皇家を同じように論じるのは変ですよ。
天皇家には、今後も男系で日本の伝統を守っていただかなくてはいけないのですからね。

ちょうど今朝方,秋篠宮家に第三子誕生というニュースがありましたが,懐妊発表の時に作為的に過ぎるとピンと来ました.
男の子が生まれる事は,誰もが想像できたでしょう.産み分けしたな,と.成功率はともかく,すでにそのくらいできます.
このあと,皇太子妃が著しく回復するという筋書きでしょう.めでたしめでたし.
これまでの状況証拠から推理するに,考えられることがいろいろとありますが,詳細に書いてしまうと非常に差し障りがあるので書きません.
私は何が何でも皇室存続という意見は持っていません.民族主義的でありながら国粋主義でなく中庸ですから.
天皇制を存続するなら男系を保持すべきだし,それが不可能ならスッパリと天皇制は廃止すべきであると考えています.
摂関政治以降,建武の親政に代表されるように天皇が政治に直接関与するようになると迷惑するだけでロクなことがないと庶民にすら言わしめる事を歴史から学び取らねばいけません.
実態はどうあれ,その最たることとしてそのことが原因で60年前に一度日本は亡びているのです.
伝統文化を云々するのであれば,前々から主張しているように,宮内庁を文部科学省の下に置いて,皇室は「重要無形文化財保持家系」すなわち「家族国宝」にすればよろしい.
そうすれば,歴史学,考古学,文学の発展にも貢献できるでしょう.皇族の皆様は,学者の肩書きがございますからね.
特に文学なんて,リビドーとの葛藤が永遠のテーマなのですから“まぐはひ”とは密接です.

英王室なんていまだに男女関係においてはだらしないじゃないですか.
昔から洋の東西問わず王侯貴族なんてそんなものでしょ.
ことに今はマスメディア~インターネットによる報道がかまびすしいですから難しく悩ましいところではありますが.

私は国粋主義者(笑)なので、天皇家は存続していただきたいと思っています。もちろん男系で。

産み分けのことですけど、確率的に成功の度合いは低いです。
体外受精なら、確率として高いでしょうけど、そこまでしてるとは思えません。
女の子が二人続いたんですから、男の子が生まれても不思議はないと…。
確率で言えば二分の一ですから。

天皇の一番大切な仕事は、国民のために祈ることなんじゃないでしょうか。
文化伝統よりも、祭祀ですね。
「重要無形文化財保持家系」というのは、ある意味いい案だなと思うのですけど、やはり元首でいていただきたい。

60年前のことは、天皇陛下よりも政治家たちに大いに問題があると思いますよ。

イギリスはあまりにもヒドイ(笑)ですよねぇ…。(他の国でもあるでしょうけど…目立つ)
日本では、例えば昔(現在も?)の政治家なんて何人も愛人を囲っていた人もいるのに、
なぜ天皇陛下に側室がダメなのか理解不能です。
ま、昭和帝が側室なしにしちゃったのが始まりですかね。
側室って、そんなに現代にそぐわないんでしょうか?

いや,そこまでしてる可能性も高いんじゃないでしょうか.「きっこのブログ」に書かれたほどではないにせよね.
その詳細を書けないと言う部分なんですが,ウチの家族では全員が見解一致しているんですよ.
また,お会いできる機会には直接口頭でお話したいと思いますけど.キケンでキケンで(爆).

>国民のために祈る
キケンですねえ.元寇のときの朝廷の態度がこれですよ.
祈ったから神風が吹いて元軍を撃退したといって鎌倉に恩賞はおろか,ねぎらいも無かったんですから.
で,根拠もなく神風が吹くと思っていたわけで,無数の若人が神風となるべく命を散らしたのが60年前ですよね.
政治は“まつりごと”なので古来祭祀と表裏一体ですが,この複雑な外交も含む現代においてそれで事足りるのでしょうか.
祭祀が政治と分離されて行事として形だけ残っている以上は,文化財です.
各地の神社等で今も行われている占い神事ももとは政治の一環でしたが,現在では無形文化財以上の意味はありません.

側室がだめなのは,やっぱり人権問題でしょうね.女は子を産む道具か?という議論ね.
これは肯定的(女の特権説)にも否定的(女の足枷説)にも解釈できますので.
未開の文明において子孫を残す事のみが美徳であれば,一夫多妻はありです.
したがって,現代“社会”に側室がそぐわないのではなくて,現代“文明”にそぐわないのです.
右翼がアナクロと思われるのは,そういう社会科学的分析がないからなんです.
皇室をオープンにすべきかクローズにすべきか,悩ましいところですな.
女系天皇容認派は,日本の家紋と氏姓継承システムのことを調べるべきですね.
いや,逆に男系皇統継承保持派が強調すべきです.「女紋」のことを問い質してやればいい.
女系天皇が誕生したら,天皇家の紋は「菊の御紋」ではなくなりますよーだ,って.
菊の御紋がなくなったら,それはもはや天皇家ではない.
それを現代的ではないと吐かす意見が通るのであれば,いっそ天皇制は廃止するべきで,継続するのであれば男系は固持するべきものです.

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2006年8月29日 19:14に投稿されたエントリーのページです。

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