実は,私自身が権威に弱いのである.
「何々のオーソリティ誰々が言っている」と言われればそれに追従してしまう.
以前に,マイナスイオンが眉唾であることを書いたことがある.その件でも,友人にもらった化学学会誌記事のコピーを基に論じているのである.
自分では,研究できないので比較的信頼がおけるであろう何かを拠り所にしないと仕方ないのである.
“科学”とはどういうことかというと,調査分析の結果をそのまま出すことではない.
あらゆる状況から推理して一つの仮説を立て,実験や数理的証明を行い,また,他の研究者との議論や反証で洗練させていくものである.
(一言に科学と言ってしまっているが,この場合は自然科学を対象としている.突き詰めれば社会科学も人文科学も物理現象や数理的解析を用いなくとも同様の姿勢で研究されていることは言うまでもない.)
“ニセ科学”には,その反論という過程を全く経ていないように思われる.
「昔から言われているから」「社会的経済的に信用がおける一流企業が販売しているものだから」という理由だけである.
各家電メーカーが販売する“マイナスイオン”商品は信用できて,怪しげな白装束の団体が言う“スカラー波”は信用できないのはなぜか?
一般大衆が,権威者に対して思考停止しているからに他ならない.
“ニセ科学”というよりも“現代的迷信”である.
別に「人を見たら泥棒と思え」とは言わないが,反論ならずとも質問をしたうえで納得して気持ち悪さを解消したいとは思わないのだろうか.
少し前にあったニュースでは,地球環境問題に興味のある人を対象にしたアンケート調査で,
地球温暖化の主原因はフロンガスだと思っている人が半数を超えていると言う結果だった.
フロンガスは確かに温暖化係数の高い物質であるが,誤解された因果関係が秀逸である.
「フロンガスがオゾンホールを作り,紫外線が地上に到達するので温暖化に繋がる.」と言うのである.
地球環境問題に興味がある人がこのていたらくである.
言うまでもないが,
「フロンガスのオゾン層破壊により,紫外線が地上へ到達することによって,皮膚癌や眼の障害発生の危険性が著しく高まる.」
「二酸化炭素濃度の増加によって熱の宇宙空間への放出が阻害されるために温暖化が進行する.」
というのが公式見解である.
大衆は,いかに表面的で短絡的にしか捉えていないかが分かる.
ニュース本文
「ニセ科学」について議論するシンポジウムを、日本物理学会(佐藤勝彦会長)が30日、愛媛大学(松山市)で開く。血液型による性格診断など、社会に広く受け入れられている「科学的に見える非科学」にどう対応すべきか考える初の取り組みだ。
シンポジウムを提案した田崎晴明・学習院大教授(統計物理学)によると、科学的に明確に否定されているのに「科学らしく」宣伝されている事柄をニセ科学と呼ぶ。検証が待たれる理論は別にして、ニセ科学は科学らしさを装った偽物という解釈だ。
シンポジウムでは、個別の事象について「本物か偽物か」を議論することはしない。こうした事象が信じられるのはなぜか、専門家としてどう対応することが適切かを話し合う。
社会では血液型性格診断が差別を生んだり、さまざまな「科学的効能」をうたう水や家電が高価格で売られている。田崎教授は「ニセ科学が道徳の授業で教えられた例もあり、物理学者として見過ごせない。科学的な考え方よりも『これは正しい、これはウソ』という知識として理科が教えられており、ニセ科学を見極める判断力や批判精神が育ちにくいことも問題だ」と指摘する。
シンポジウムは春の学会の一行事のため、学会への参加登録を済ませた人だけが参加できる。【元村有希子】
(毎日新聞) - 3月29日10時51分更新