2005年5月23日 読売新聞ONLINEより
苦味感じる遺伝子、人類進化で急速に退化
苦味を感じる遺伝子は人類進化の道のりで急速に退化したことを、総合研究大学院大学(神奈川県葉山町)の郷康広研究員らが突き止めた。
苦味への感受性は、毒を体内に取り入れないよう備えられたとされているが、人類は、発達した脳で毒を学習し、実際に食べなくても見分けられるようになったことが急な退化の原因らしい。この成果は米遺伝学会誌の今月号に発表された。
苦味を感じるセンサーを作り出す遺伝子は人類では25個が働いている。ほかに機能を失った残がいのような遺伝子が11個ある。
研究チームがチンパンジーやゴリラ、マカクザルなど12種の霊長類の苦味遺伝子を調べたところ、これらが持つ残がいの遺伝子は人類よりも少なかった。さらに、1個の苦味遺伝子が機能しなくなるのにこれらの霊長類では平均して約780万年かかっていたのに対し、人類は約200万年と退化が3・9倍も速かった。
人間が持っている味覚の中で最も鈍いのが甘味で最も敏感なのが苦味だそうである.
甘味は糖分であり,即活動のためのエネルギーになるのでたくさん取り入れるために鈍く,苦味は上記の通り毒を意味するので敏感になっている.
そして,幼少期ほど苦味には敏感である.毒を口にしても取り込んでしまわないように,である.
ところが我々文明人はこの苦味を積極的に楽しもうとしている.
昨今,沖縄ブームで食卓に上る機会が多くなったゴーヤー(苦瓜),ホップによって苦味付けをしたビール,そして珈琲である.
私は下戸なのでビールはあまり飲まないが,ゴーヤー・チャンプルーは好きな料理であるし,当サイトのメインテーマである珈琲はもちろん好きである.
一口に苦味といっても様々な苦味がある.特に珈琲には,まだ未解明の化学成分が相当数にのぼるそうである.
かつてNHK「ためしてガッテン」で珈琲について放送された内容では,焙煎豆が含む同じ苦味成分でも“良いお焦げ”と“悪いお焦げ”の2種類が存在して,“良いお焦げ”のみを抽出できたものが美味しい珈琲であると定義されていた.
完全に苦味を嫌うのであれば,どちらも単に苦味としか認識されないはずである.
苦味に鈍くなった分だけ,かえってその差異が分かるようになり,楽しみが増えたといえる.
人間の食事には,単に生命を維持する活動だけでなく,他の動物が持たない娯楽という意味も持つ.
感覚が退化したからといって悲観することもないし,そもそも人間は高い知能や文明と引き替えにかなりの感覚を犠牲にしてきたはずである.