東北の歴史が好きと言っても,ごく限られた期間,平安時代と戦国末期~江戸初期のみなのであるが.
具体的に述べると,征夷大将軍坂上田村麻呂で知られる朝廷対蝦夷(えみし)の三十年戦争と奥州藤原氏の興亡,そして伊達政宗の生涯である.
そもそものきっかけはNHK大河ドラマである.
伊達政宗については1987年の『独眼竜政宗』である.大河史上最高のヒット作なのでこの作品のファンも多いだろう.
当時は,単に政宗を演じる渡辺謙の凶暴なほどにダイナミックでギラついた演技が魅力で食い入るように見ていた.
続いて奥州藤原氏の興亡を描いた1993年の『炎(ほむら)立つ』である.この作品も主演は渡辺謙だったが,ワーストに挙げた方がよい程にあまり知られていない.
題材として源義経の滅びの背景としてしか一般には馴染みがないのが要因だと思うが,筆者にとっては更に掘り下げたことが新鮮だった.
いきなり源義経の背景として登場する奥州藤原氏の興りが描かれることがそれまではほとんどなかったからである.加えて三代秀衡以外が描かれることはほとんどなかった.
歴史史料でも前九年の合戦については「陸奥話記」に数行記述があるに留まっている.初代清衡の父親,藤原経清もそのような人物がいたことしかわかっていない.
そんな藤原経清を中心に前九年の合戦を描いた『炎立つ』第一部に非常に熱い物を感じた筆者は,奥州藤原氏について本を読みあさった.ついには平泉にまで足を運んだ.
すると,意外にも,奥州藤原氏と伊達政宗はつながる事項が多かったのである.
二者とも傍流であるが京藤原氏に祖を求める血筋である.
奥州藤原氏は平将門の乱鎮定の功があった大百足退治で有名な俵藤太秀郷の流,伊達氏は源頼朝の奥州合戦に従軍した藤姓の中村朝宗が功を上げ伊達郡を賜ったことに発する.
また二者とも奥羽の活気を印象づける存在である.源頼朝によって奥州藤原氏が滅ぼされた後,歴史上に東北地方を印象づけるのは伊達十七代政宗まで待たねばならない.
室町時代の伊達氏中興の祖と呼ばれる九代大膳太夫政宗も知る人ぞ知る存在であるものの実にその間約400年(伊達“政宗”は二人いる.十七代政宗は九代政宗にあやかった名).
そうしたことをきっかけに更に遡ると,蝦夷の英雄=阿弖流為(アテルイ)に突き当たる.
朝廷側の大将=坂上田村麻呂はあまりに有名だが,阿弖流為はほとんど知られていない.
戦の起こりは奥羽地方に産する黄金を公卿が収奪しようとしたことによる(前九年合戦の発端も同じ).
田村麻呂は「怒れば鬼も恐れ,笑えば子供がなつく」と言われるほど懐柔策も巧い武人である.
田村麻呂は阿弖流為を生かして束ね役にしておけば蝦夷の反乱も抑えられると考え,阿弖流為も田村麻呂の人柄を見込んで投降したはずなのに,公卿が強硬に河内守山(現在の大阪府羽曳野市辺り)で阿弖流為の首を刎ねてしまった.
“清水の舞台”で有名な京都東山の清水寺は坂上田村麻呂の建立であり,阿弖流為の供養のために建てられた寺院である.
東北旅行をした後,そんな公家達の町京都で進学の関係で生活することにあまりいい気はしていなかった.
現在は観光地となっている平泉の達谷の窟を住処とした“悪路王”=阿弖流為とされているのがあまりに酷い.
本来は地元の古代の英雄であるはずが,大盗賊の頭目のごとき扱いである.
是非地元の方々には,阿弖流為の復権・名誉回復をして頂きたいと思っている.
筆者の主張である,「郷土愛を持て」「地方をステロタイプ化して見下すな」というのは,そもそもここから来ているのである.
筆者が大阪で生まれ育ったからといって,ありがちな大阪ナショナリズムだけで言っているのではないことを分かって頂けるのではないだろうか.
お薦めの歴史小説
山岡荘八「伊達政宗 全八巻」(山岡荘八文庫)
高橋克彦「炎立つ全五巻」(講談社文庫)
高橋克彦「火怨 上下巻」(講談社文庫)
高橋克彦「風の陣」(PHP)