新刊を心待ちにしている小説の一つで1作目立志篇の発刊から愛読している.
シリーズ4作目.相変わらず,読んでいて熱い.
立志篇の発行が1995年である.新刊で常に買っては読んでいるのだが,困ったことに新作が出る頃には前作は文庫化されているほどスローペースである.
新たに読み始めた方にとっては厄介なものだと思う.ハードカバーの新刊をたまたま手にとっても前作は全て文庫本なのである.
“まつろわぬ民”と呼ばれた陸奥に住む蝦夷(えみし)の出自(元は渡来系といわれる)を持ちながら,正四位上の位階にまで昇った道嶋嶋足を主人公に据え,蝦夷の側から奈良時代の朝廷の内紛を描いたのが本作品である.
立志篇での橘奈良麻呂の乱
大望篇での恵美押勝(藤原仲麻呂)の乱
天命篇での弓削道鏡御託宣事件
今回の風雲篇では,道鏡の失脚が中心に描かれている.
この時代,よくもこれだけ短期間に大事件が立て続けに起こったものである.
まだまだ,少しの振り程度であるが,後に互いに敵将として戦うことになる,坂上田村麻呂と阿弖流為(アテルイ)が十歳頃の少年として登場する.
史料には嶋足の晩年は詳しく記されていないのだが,後に伊治公呰麻呂(本作中では鮮麻呂)の乱に端を発する三十八年戦争が待っている.
歴史では嶋足の同族,道嶋大楯が呰麻呂に殺害されるのが呰麻呂の乱である.
大楯とともに呰麻呂に按擦使として殺害される紀広純も本作で登場した.
題材が史実である.異説本ではないので脚色はともかく要所の史実を曲げる訳にはいかない.
結末は悲劇以外にあり得ないのは想像に難くない.
同じ高橋克彦の作品で阿弖流為を主人公とし三十八年戦争を描いた「火怨-北の燿星アテルイ-」は,嶋足本人はその場にいないものの悪し様に言われる場面から始まる.
現在雑誌連載中の五作目の副題は,裂心篇である.嶋足に代わり,鮮麻呂を主人公に据えてあるそうである.
次作,裂心篇がおそらく最終章となり,「火怨」に繋がる結末(呰麻呂の乱の直前)を迎えるのだろう.
これまた,待ち遠しい限りである.