近頃,コンビニエンスストアやファーストフード店などに入ると,決まって店員が
「いらっしゃいませ.こんにちは.」
と客を迎える.これは,語順が逆ではないのか?
日本語の挨拶の決まり文句である,
「おはようございます」
「こんにちは」
「こんばんは」
「さようなら」
すべて漢字で書くと当然ながら,
「お早う御座います」
「今日は」
「今晩は」
「左様なら」
となる.
すべてが,本来は社交辞令であり,後に続く言葉が省略されているものである.「お早う御座います」も自分より先に来ている人に対する労いを含む.
例えば,「今日は,天気もよろしいですね.」や「今日は,ご機嫌いかがですか.」などとなるはずである.
と,考えると冒頭に述べた例は,
「今日は,ようこそいらっしゃいました.」となるはずである.
誰がマニュアル化したか知らないが,非常に気持ちが悪い.
この現象は言葉が記号化していることに他ならないのではないだろうか.
作家の井沢元彦氏は,日本人は“言霊”に無意識に縛られていて,それが日本人の国際感覚の欠如や夢想的理想主義の原因となっていることを指摘しているが,
その一方で万葉集など優れた文学のよりどころとなっていることも確かである.
日本語の中で,言霊の悪い部分だけが残って,美しい部分が失われているように思う.
また,関西弁で礼を言うときの「おおきに」=「ありがとう」とお思いではないだろうか.
これは間違えてはいけない.「ありがとう」はあくまで「ありがとう」であり,すべて言うと「おおきに,ありがとう.」である.
おわかりだろう.「おおきに」というのは,Thank you very much.の"very much"なのである.
ギャグで「おおきに,ベリーマッチ」などというのをたまに聞くことがあるが,全く意味が通らないのである.
ギャグといえども,浅学というか,語源を知らないこと夥しい.
言葉を記号化せずに,言葉は事象を置き換えるものであると捉えてみるべきではないだろうか.
そのためにも下品な略語は極力使わない方がいい.